ある日曜日の朝、手帳を開いた私は、真っ白なページを見てしばらく手を止めていました。そこにはまだ何の予定も書かれていないのです。打ち合わせも、買い物も、誰かと会う約束もない。いつもはぎっしり書き込まれているはずの手帳が、ぽっかりと空いている。最初は「空白=怠け」のような気がして、少し落ち着きませんでした。

でも、ふと思いました。「今日は、あえて何も入れずに過ごしてみよう」と。予定を埋めることが「充実」だと思い込んでいる私にとって、それは小さな実験でした。
予定を手放す勇気



朝のうちに掃除や洗濯を終えると、いつもなら「次は何をしよう?」と考えるのが癖になっていました。でもその日は、敢えて次を決めない。ソファに座って、お茶を入れ、ただ窓の外を眺める。カーテン越しに射し込む光が、ゆっくりと壁を移動していくのを見ているだけの時間。
最初の30分ほどは、体がそわそわしていましたね。
「もったいない」「何かしなきゃ」そんな言葉が頭の中をぐるぐる回る。
でも、1時間も経つころには、少しずつ体の力が抜けていきました。予定を入れないということは、思考を休ませるということなんだと気づきました。それは“怠け”ではなく、“呼吸を取り戻す時間”だったのです。
静けさが心を整えていく
昼前になると、部屋の中が穏やかに暖まり、心にも不思議な余裕が生まれてきます。スマホを見ようと思えば見られるのに、今日はなんとなく触る気になれません。
本棚から手に取ったのは、以前買ったままになっていた詩集。そのページをめくる音が、部屋の静けさに溶けていきます。


「何もしない時間」には、音のないやさしさがあります。
誰かに合わせる必要も、成果を出す必要もない。ただ、呼吸を感じて、生きているという実感を取り戻す。そんな時間を、私はどれだけ失っていたんだろうと、少し切なくなるほどでした。
“時間を空ける”という整え方
予定を詰め込むほど、私たちは安心できる気がします。でも本当は、その空白こそが心を整えてくれるんです。
空いている時間は「ムダ」ではなく、「心が回復する余白」。予定がないとき、時間がゆっくり流れ始め、“あ、私、ちゃんと息してるな”と感じられる瞬間が増えていきます。
私はこの日、「時間の使い方」を少し変えたいと思いました。
“埋める”のではなく、“空ける”という選択を、これからも大切にしてみようと。
夜になって気づいたこと
日が暮れ、部屋の灯りをつけて、静かな夜を迎えました。今日という一日を振り返ると、特別なことは何一つしていません。でも、心は不思議なくらい軽く、体も深く息をしているようでした。

“何もしない日”を過ごしたことで、逆に自分の中に新しいエネルギーが満ちているのを感じます。それは、頑張って得た達成感とは違う、静かで穏やかな満足感。
予定を詰め込むことで「生きている実感」を確かめていた私が、空白の時間の中でも“ちゃんと生きている”と感じられた。それが、この日の一番の発見でした。
「何も予定を入れない日」は、その後の私にとって“心のリセットボタン”のような存在になりました。何もしていないようで、実は深く整っている時間。焦りを手放し、心に余白をつくる。
予定を詰める日も大事。でも、予定を空ける日も、同じくらい大切なんです。
これからは、手帳の中に「わたし時間」と書かれた空白を、もっと意識的に増やしていきたいと思います。その空白こそが、未来の私をやさしく支えてくれる“静かな約束”だから。